グラフで見る:年金・健康保険料がいかに低所得者に厳しいか

年金と健康保険、その保険料を負担に感じている方が多いこの頃です。
では、私たちは年収の何%を社会保険料に費やしているのでしょうか?
その疑問に答えるためにグラフを作成しました。
そのグラフを見れば、社会保険料が低所得者にとって不利であること、高所得者にばかり有利であることが一目瞭然です。
下のグラフをご覧ください。縦軸は「保険料が収入の何%か」を示した目安値です。

スライド2

2019年の国民年金保険料は月額16,410円です。これは年収290万円の人にとっては収入の6.8%におよぶ重税ですが、年収2000万円の人にとっては1%にも満たないものです。低所得者ほど税の負担感が重く、一方で富める人ほど負担感が軽いのです。
グラフの左のほうがギザギザしているのは、保険料免除制度のためです。申請書を年金事務所に提出することで多少は保険料が減るものの、全額免除を除けば富裕層よりも不利な割合になっています。全額免除は年収がよほどの貧困レベルでなければ受けられず、保険料免除制度が十分に機能していない実態が分かります。
貧しい人ばかりに重い税が課される、そのような道理があるでしょうか。

補足:
このグラフはサラリーマンの一人世帯の場合で計算しました。
実際は職業の形態や扶養親族の数などによって変動します。
また、保険料の猶予について、ある程度の収入があっても、失業時には猶予を受けられます。また学生も猶予を受けられます。また、年収がいくら以下なら免除を受けられるかは人によって異なります。例えば扶養親族が多ければ免除を受けやすくなります。免除や猶予については、申請しないと受けられないので年金事務所か役所に相談しましょう。

次に厚生年金保険料を見てみます。

スライド3

厚生年金保険料は月収の18.3%です(グラフのオレンジ線)。ただし、事業者と労働者で折半するので、労働者の給与明細の上ではその半分の9.15%に見えます(グラフの青線)。しかし、18.3%という重い数値は富裕層には当てはまりません。保険料には上限があり、月収が60.5万円を超えると、収入が増えても保険料は増えなくなります。したがって豊かであるほど税の割合が減り、月収300万円の人は労使両方(オレンジ線)で3.78%、労働者負担(青線)で1.89%のみの負担にすぎないのです。

補足:
上のグラフの「月収」とは、正確には「標準報酬月額」を指します。

次に国民年金保険料を見てみます。

スライド4

訂正のため追記:
ここでいう「サラリーマンの場合」とは、「自営業者で、収入に対する所得がサラリーマンと同等だった場合」と読み替えるようお願いします。国保に加入して、なおかつ収入がある人はふつう自営業者で、サラリーマンではありませんでした。ただ、自営業者の所得計算は人によってバラバラで計算できないので、収入に対する所得がサラリーマンと同等の場合を仮定して計算した、ということにさせてください。

国保の保険料はおおむね収入の8.5%~9.0%になります。富める者になっても割合はほとんど増えません。それどころか年収1050万円を超えると上限額に達し、そこから先は割合が減っていきます。
グラフが年収150万円のあたりで折れ曲がっているのは、貧困層のための軽減制度です。軽減制度の対象になる年収は人によって異なりますが、世田谷区に住む一人世帯の一般的なサラリーマン(と同等の所得を得る自営業者)の場合、年収がよほどの貧困レベルでなければ軽減制度を受けられないのです。
さて、軽減制度の対象になった場合、所得によって保険料は最大70% OFFになります。しかし7割減でも年20,340円を支払う必要があります。これは年収がゼロの人も例外なく支払います
そのため年収がゼロに近づくと、税の割合は無限大に発散します。無限大の税率。なんと奇妙なグラフでしょうか。

補足:
 このグラフを作るにあたっては多数の仮定を置きました。
「東京都世田谷区に住む、40歳、一人世帯、(収入に対する所得が)サラリーマン(と同等)の場合」
という条件のどれか一つでも変わると、描かれるグラフも変わります。
特に保険料が軽減されるライン(図の150万円)は、数あるケースの中でもかなりシビアなほうで、実際はこれより収入が多くとも、申請すれば軽減されるケースが多いです。
(これは他の税についても同じことが言えます。)
軽減の申請を考えている人は、自分が条件に当てはまるかどうかを調べて迷うよりも、
役所に相談したほうが早いという点を助言させてください。

社会保険料がいかに低所得者に厳しいものであるかがお分かりいただけたかと思います。
しかし他の税を見てみると、貧困層にとって優しい税もあります。例えば所得税です。

スライド5

所得税は、貧しい人からは多くを取らず、豊かな人から多くを取る累進課税になっています。これが本来のあるべき税の姿と私は考えます。このような累進課税には、次の利点があります。

累進課税の利点:

  • 納税者の負担能力に応じた税額です。(垂直的平等
  • 所得格差を是正し、身分階級の固定化を防止します。(富の再分配
  • 景気の安定化装置として働きます。好景気には増税となり、
    不況の際は自動的に減税となるためです。(ビルト・イン・スタビライザー
  • 貯めこまれがちな高額所得者の所得が、消費性向の高い
    中低額所得者に移転し、需要全体を押し上げます。

累進課税の欠点は、労働者のモチベーションを低下させる場合があることです。個人的な考えですが、低所得で細々と暮らす人々が重税にあえぐことに比べたら、ずっとマシなデメリットだと思います。

※ 累進課税の利点と欠点については、Wikipediaの記事を見て書きました。

以上を踏まえて、私の意見を述べます。

所得税のように、富裕層の負担割合が高い右上がりのグラフなら、税のあり方として納得できます。
それに対して厚生年金、国民年金、国民健康保険の税は、低所得者にとっては重い負担であるのに、富裕層にとっては軽いものなっています。
これは望ましい税のあり方ではない、と私は考えます。
年金や国保のために徴収されるお金は、「保険料」という名前ではありますが、つまるところ税の一種です。
低所得者が、その貴重なお金の多くを税で持っていかれて貧困にあえぐ社会よりも、税の率のグラフが右上がりになるような制度を作って、税額の一部を負担能力のある人に回したほうが、公平感があり、より良い社会になるのではないかと私は考えます。

さて、このブログを書いている今現在、ニュースは2019年参議院選挙の話題で沸き立っています。以上の考え方を持つ私は、どの政党に投票すれば良いでしょうか。様々な政党の公約を確認した結果、主に社会民主党と日本共産党が社会保険料の引き下げについて言及していることが分かりました。

スライド6

↑ 情報源:社民党 選挙公約詳細

スライド7

↑ 情報源:共産党 2019参議院選挙公約

上のどちらかの政党に票が集まれば、低所得者にとって社会保険料の負担が下がることを期待できそうです。

あとがき

「私達は、年収の何%を社会保険料に費やしているか?」

これは日常生活で当然に出てくる疑問です。多くの方は、給与明細に書かれた天引き額に顔をしかめ、本当にこの額で良いのか? と疑問に思った経験がおありでしょう。その答えを探すため、私はグラフを探しました。横軸に年収をとり、縦軸に保険料(年収に対するパーセント)をとったグラフを見れば、「何%か?」という問いにはひと目で答えられるはずです。しかしGoogleで検索してもそのようなグラフは見当たらなかったので、私は自分でグラフを作ることにしました。自治体のWebページを読み、税額の算出方法、免除の基準などを調べ、Excelの表を画面からはみ出すくらいに使ってグラフを作りました。すると残酷な事実が明らかになります。グラフはなんと右下がり、つまり低所得者ほど負担が重く、高所得者ほど負担が軽いことが一目瞭然です。さらに恐ろしいのは、そのようなグラフがGoogleで検索しても見当たらなかったということです。グラフを見れば明らかなのに、そのグラフを作る人があまりいなかった。ゆえに周知されていない。そこに問題意識を感じ、私はこの個人的な調査結果をまとめて発表することにしました。この資料をきっかけに、社会保険料について考えて頂けたなら幸いです。なお、グラフを作るための計算過程であるExcelファイルを公開しますので、誤りがあった場合はお知らせください。 [ 2019年7月6日 ハンドルネーム:リノール ]

グラフを作るための計算過程となったExcelファイルをここに公開します:
社会保険料計算Excel

また、説明用のPowerPointファイルもここに公開します:
説明用PowerPoint